ブログ

[腸腰筋] 人工股関節 手術後の筋力トレーニング

ブログ検索#研究論文

[腸腰筋] 人工股関節 手術後の筋力トレーニング

更新 2014年05月14日(水)
カテゴリ 股関節の保存施術
ハッシュタグ #変形性股関節症  #股関節の手術  #学会  #研究論文 
2009年から変形性股関節症の早期治療の重要性を呼びかけ、ニーズに見合った保存療法の実践により痛みの解消と同時に運動機能の回復を実現してほしい、との想いから、
インターネットを通じ最新の情報をお届けてしております。これまで全国から本当に多く皆様にご相談をいただけるようになり、大変嬉しく思っております。股関節痛もいよいよ手術を防げる時代の突入ですね。

さて今日は筋力トレーニングに関する最新の知見をお届けします。併せて、未手術と手術後におけるトレーニングの考え方についても私の経験になりますがご紹介させていただきます。まず、人工股関節の手術後です。関節は治っても筋肉そのものは治りにくいものです。症状にこそ差はあれど、やはりその後の「筋力強化」は欠かせないのでしょう。

その根拠ともいえるのが、2013年、日本人医師によって発表されたある報告です。

"Iliopsoas Muscle Atrophy was Evident in the Patients with Hip Osteoarthritis – MRI Analysis of 800 Cases" http://www6.aaos.org/news/PDFopen/PDFopen.cfm?page_url=http://www.aaos.org/news/acadnews/2013/AAOS6_3_21.asp

日本人の変形性股関節症の患者さん800人を対象に、人工股関節の手術前後の「中殿筋(ちゅうでんきん)」と「腸腰筋(ちょうようきん)」の萎縮の程度を調べた結果、
腸腰筋は、中殿筋よりも萎縮率は顕著であり、その程度と罹病期間や股関節拘縮の間には相関がみられたと述べられています。

また、人工股関節置換術後には腸腰筋はある程度は回復するものの正常からは程遠い、との結果です。中殿筋に腸腰筋、両方とも股関節症のリハビリでは、外せない存在ですね。この機会にもう一度、その場所と働きくらいは、確認しておきましょう。

まずは、中殿筋です。お尻の横に存在し、ピザのような形の筋肉。ぺろっとめくるとその下層には、小殿筋が存在します。
医師の間でも、決まって中殿筋のリハビリが取り沙汰されます。変形性股関節症患者さん特有の肩を揺らすような歩き方は、中殿筋の筋力低下が原因だというのです。皆さんの中にも、病院リハビリで脚の横上げ運動を指導された経験のある方はいらっしゃるでしょう。実は理学療法士の間でも一時一世風靡し、筋繊維の種類に応じた、
脚挙げスピードに変化を加えることで、中殿筋を効果的に鍛えようと提唱された時期もありました。私の経験から申し上げれば、一切中殿筋のトレーニングを行なったことはありません。本当に中殿筋の筋力低下により跛行が起きるのか、今でも疑問に感じています。

また未手術と手術後では、対応方法も変わるのではないでしょうか。一般的な人工股関節の手術では、その侵入経路、創跡は、股関節の外側に位置します。下図のような方法で中殿筋を刺激すれば、当然、創周囲へも負担になることが予測されます。最近増えている前方侵入、話題の股関節唇損傷の手術では、少し前の方に創跡が残りますね。つま先や膝の向きが少し反れるだけでも、要注意です。
「人間の動き」を想像してみても、中殿筋ひとつトレーニングしたところで全体の運動パターンが改善されるとは考えにくいものです。運動経験が豊富な方では感覚的に既にお気付きでしょうが、やはり、どこかの筋肉との連携、対になるような関係が必要で、中殿筋が働き易いような土台を構築することが大切だと思われます。

その上で冒頭にご紹介した研究報告は、非常に、臨床的にも参考になる内容です。腸腰筋とは下の図のように股関節を股がる大きな筋肉です。
手術後では、とにかくこの筋肉が痩せるのです。特に「しゃがんではだめ」「深く曲げてはいけない」などの、制限付きで退院を余儀なくされた患者さんたちでは、腸腰筋の筋力低下は避けられないでしょう。また、保存療法の視点から診た場合、どの点に気をつける必要があるのでしょうか。腸腰筋のこの独特な「走行」に注目するとイメージされるように、上半身を下半身を結び、股関節の直上を通過します。一歩誤れば、関節を圧迫するような大きな力を生み出しそうですし、先の研究でも報告されたように、この筋肉の機能不全は、可動域制限にも直結します。つまり股関節の動きが悪くなるのです。

靴下が困難、爪切りが難しいなどの訴えは、まさには腸腰筋の影響を受けた証でしょう。もちろん腸腰筋だけのせいではありませんが、存在位置、力強さの分、他へ与える影響力も絶大です。使い方によっては脚長差を引き起こし、とにかく様々な悪さをするのがこの筋肉です。保存療法では、腸腰筋に余計な負担をかけないような身体の使い方を、まずは日常動作レベルから学んでいただきたいと思っています。

人工股関節の手術後であっても未手術による保存療法であっても、筋力への適切な刺激は必要です。それを"筋力トレーニング"と便宜上表現されがちですが、スポーツジムで汗水流すような、鍛える一心のハードなイメージよりもむしろ、これまで使っていなかった感覚を養う、筋肉に適度な刺激を与える、といった方が股関節症の方、特に未手術の方へは、望ましいでしょう。

方法さえ間違いなければ、必要なところへ、必要な分の筋肉は付いてくるものです。まずは、ご自身の特徴を知り、リスクを想定した上で、安全に筋力強化を図っていきましょう。一度狭くなった股関節の動きを広げるのは大変苦労します。一旦短くなった脚を整えるのは、手術でしか方法が無い場合もあります。

ginzaplus 佐藤正裕(理学療法士)



更新 2014年05月14日(水)
カテゴリ 股関節の保存施術
ハッシュタグ #変形性股関節症  #股関節の手術  #学会  #研究論文 

最新記事






▼「ブログ」その他のコンテンツ
全カテゴリ 股関節の保存施術 施術事例 お知らせ メデイア プライベート
Copyright © 2004-2024 ginzaplus | 当サイトの全コンテンツは著作権法、関連条約・法律で保護されており、無断での複製・転載・転用を固く禁じます。| 利用規約 | 個人情報保護方針
Web System & Design by R-Crafz