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再生医療の種類、メリット、リスクと対策

再生医療に関する相談が増えています

近年話題の「再生医療」。ginzaplusでも、再生医療前・再生医療後の相談を頂く機会が増えてきました。病院での治療現場でも選択肢として提示されることもあり、専門の医療機関も増えてきてましたので、ここで改めて、再生医療と変形性股関節症に対する効果、再生医療におけるリハビリの役割について確認しておきたいと思います。

保存療法の一環としての再生医療

再生医療 (Regenerative Medicine) とは、傷んでしまった組織を再生することを目的とした医療です。その安全性と効果は立証されつつあり、日本においては、スポーツ外傷や美容整形などの分野で積極的に行われてきましたが、近年、変形性関節症のような関節疾患にも応用され、保存療法の一環として取り入れられるようになってきました。

変形性関節症の国際学会 (OARSI Osteoarthritis Research Society International) でも、最新の治療結果や研究報告に触れることができます。ただし、患者像などについては未だ不明確なことも多く、未だ発展途上の段階にある治療法といえるでしょう。

再生医療の種類と股関節への効果について

再生医療に期待されるのは「痛みの改善」と「組織の修復」です。日本の医療現場における再生医療の治療法は、主に以下の2つの方法が主流になっていると思われます。※APS療法、抗炎症作用を高めた新しい方式の「PRP療法」もあります。

  1. 自己血から血小板を取り除いて注入する「PRP療法」
  2. ご自身のお腹やお尻の脂肪組織を取り除き、再び関節内へ戻す「幹細胞治療」

2010年以降急速に注目を集める再生医療ではありますが、実際のところ変形性関節症の領域においては、「膝」に対する研究報告は多く存在しますが、「股関節」については未だ十分とはいえない状況です。

それでも、変形性股関節症に対するPRP療法への効果も報告される中で、ヒアルロン酸による治療と比較した研究では、PRP療法の方が痛みの改善、進行予防に効果が高いことが報告されています。一方で、幹細胞療法に関しては、動物実験レベルでの報告が多く、人体への効果については未だ検証段階(※1)といった印象を受け、今後の症例の蓄積と発展が望まれる分野と位置付けされています。

また「施術事例のページ」でもご紹介している通り、関節軟骨があっても痛みを訴える方はいらっしゃいますし、軟骨がなくても、痛みなく走れる方もいらっしゃいます。つまり、軟骨は痛みを感じない組織ですので、痛みの克服には、あまり軟骨の存在の有無に固執しない考え方も必要かも知れません。

痛みは、身体的な問題に留まらず、精神的な要因も多分に含んでいます。ご自身の納得のいく判断で、担当医よりメリット・デメリットの説明を受けた中で、治療方法の選択に臨めるのが理想でしょう。

※1 YeYe et al, 2018. Platelet rich plasma versus hyaluronic acid in patients with hip osteoarthritis: A meta-analysis of randomized controlled trials

再生医療のリスクと対策

基礎研究や研究室レベルの実験でも明らかなように、軟骨組織への修復と再生には適度な刺激が不可欠です。2016年のアムステルダムでのOARSIの報告では、「歩行による軟骨組織への影響」を報告し(※2)、また2019年のトロントでは「適度な運動が軟骨へ好影響を与える」(※3)と述べています。さらに、基礎系の研究でも、軟骨の栄養供給には「運動刺激が有効」である(※4)ことを報告しています。

こうした研究結果からも、幹細胞はじめとしたPRP療法、再生医療を選択する際には、より確実な効果を手に入れる上でも「リハビリテーションとの組み合わせ」は不可欠といえるでしょう。

但し、医療機関によって、再生医療後のリハビリ対する考え方は様々であり、中には、幹細胞投与後、1ヶ月の安静を指示され、杖歩行、極端な筋力が低下から、関節拘縮をもたらし、人工関節に至った方も何例も見られます。再生医療を受けるにあたっては、その医療機関がリハビリの必要性への理解があるかどうか、そうした指導を受けられるのか、あるいは、リハビリを指導してくれる医療機関を紹介してもらえるのかなど、事前に入念に確認しておくことが望ましいでしょう。

確かに、自己組織を体内へ注入する治療であるため、再生医療そのものには副作用は少なく安全であることはいうまでもありませんが、重篤な後遺症により大事な股関節を失うリスクだけは避けられるようにしておく必要があります。

※2 Jaqueline Lourdes Rios et al, 2016. High mileage walking does not lead to osteoarthritis changes in the rat knee
※3 J. W. Mather et al, 2019. Moderate exercise prevents cartilage softening and muscle structural changes in a rat model of obesity
※4 Xiaobin Huang et al, 2018. Physical Stimulations for Bone and Cartilage Regeneration

再生医療後の相談例

以下に、実際に医療機関で股関節の再生医療を受けた後で、ginzaplusへ相談に来られた例をご紹介します。

■症例1 (50代 女性)

この方は幼少期から先天性股関節脱臼の既往があり、臼蓋形成不全を診断されています。痛みを抱えてきたため専門医にかかると、人工関節の手術を指示されましたが、これを拒み、リハビリを実践。リハビリにより痛みは軽減されていましたが、最近になって再生医療に関心を持ち、幹細胞治療を実施しました。

▲再生医療(幹細胞投与)実施前:臼蓋形成不全がありますが、まだ軟骨の隙間は確認されます。

▲再生医療(幹細胞投与)実施後:大腿骨側の骨頭と骨盤側が接触しはじめ、部分的に軟骨の隙間が狭くなっています。亜脱臼を呈し、関節症の進行が確認されます。

ところが、幹細胞治療の初回から2回目にかけて、徐々に脚長差を感じはじめ、レントゲン画像では、明らかな関節症の進行が確認されるようになります。脚長差は、大腿骨の骨頭が扁平化・変形し、骨頭が潰れ、骨盤側に陥入したためです。こうなってしまうと、脚長差はもう元には戻らず、脚の長さの左右差を感じながらの生活を続けるか、さらに人工関節の選択を迫られることになります。

問題となるのは、このように基礎疾患(先天性股関節脱臼など)がある場合でも、再生医療(幹細胞治療)の効果が期待できるのか?ということです。再生医療を行うかどうかの判断と並行して、関節症が進行するリスクがあるケースでは、再生医療前後の予防的なリハビリをしっかりと実施することが望まれます。

■症例2 (60代 女性)

こちらの方は、幼少期は股関節のトラブルは無かったものの、トレッキングや山歩きの趣味から股関節に違和感を感じはじめ、徐々に症状が進行。痛みを改善する手立てはないかと、再生医療専門の医院を訪ね、幹細胞投与を開始。

▲再生医療(幹細胞投与)実施前:既に大腿骨の骨頭の変形がはじまり、骨嚢胞も確認されます。

▲再生医療(幹細胞投与)実施後:大腿骨が潰れはじめ骨頭の扁平化が更に進行し、球形を残すことなく、関節症の進行が確認されます。

ところが数ヶ月には担当医から、症状のさらなる進行を説明され、MRI上も明らかに大腿骨骨頭の消失が確認されています。現在は、杖がなくては歩くことすら困難になり、脚長差と跛行が酷く、ご本人の希望でもある人工関節を避けるためにも早急なリハビリが必要な状況です。

臼蓋形成不全であっても、こうして進行期〜末期への過渡期にあるようなケースでは、再生医療は期待されるような改善が見られないことがあります。骨が変形した状態でも、果たして効果が期待できるのかどうか、股関節については未だ明らかになっていないことが多々あります。ご自身の症状が再生医療の適応症かどうか、しっかりと見極める必要があります。

再生医療に対するginzaplusの姿勢

ginzaplusでは再生医療を受けた多くの患者様と接していますが、こうしてみると日本においては、変形股関節症に対する再生医療もまだ駆け出しの段階であることが理解できます。

ginzaplusでは再生医療を否定はしていません。今後、症例数が増えて適応例が明確になり、保険適応され、願わくば、将来的には人工関節に変わる画期的な治療法となることを望みます。

ただし、現時点ではまだまだ新しい治療法であり、再生医療後のフォロー体制まで整っていない部分もあるため、十分に注意が必要です。

繰り返しにはなりますが、上記の症例紹介のように、既に症状が進行してしまった場合には、再生医療によって消失した軟骨を再生させたり、既に変形した骨を元通りにする効果は限定的であることを、改めて注意喚起を促しておきたいと思います。

実際にこのようなリスクがある以上、再生医療前であれば、症例に合った治療が受けられるかどうか、適切なリハビリテーションを受けることができるかどうかを判断し、再生医療後は(医師から安静度の指示がクリアになれば)積極的かつ計画的にリハビリを行い、大事な股関節の可動域と筋力低下を招かないよう、しっかりと取り組んでいくことが必要になります。

医療機関で再生医療を奨められた場合は、ぜひ ginzaplusのセカンドオピニオン をご活用下さい。症状によって再生医療に期待ができるかどうか、再生医療を受ける場合はどのような点を注意したら良いか、患者様の特有の状況によって客観的かつ適切なアドバイスをさせて頂きます。

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