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股関節手術の種類、リスク、後遺症

人工股関節手術

●概要

1890年代には象牙による人工関節が使用されて以来、その開発は目覚ましい発展を遂げ、股関節治療においては最も躍進し続ける分野です。15年といわれた人工関節も最近では30年以上ももつものまで開発されています。その耐久性とQOL(quality of life 生活の質)を重視した考え方から、若年者へも盛んに勧められるようになり、短期入院を謳い欧米式のMIS(Minimally Invasive Surgery)が日本でも導入されるになったことは大きな話題を呼んでいます。 近年開発されている人工関節では、長期にわたる良好な成績が期待されてはいても、宿命的な問題点として、人工関節の弛みや新たな材質による未知の問題があります。活動性が高く若年者には、比較的早期からの骨融解や挿入物の弛みや破損も危惧されています。

●手術内容

手術を受ける2日前には入院し、各種検査を行います。手術は通常横向き、股関節側面、一般的な人工関節の手術では大腿筋膜張筋といわれる筋肉を約20cm切開し、大腿骨頭を取り除き、骨盤側の屋根を整えた上で、人工関節に置き換えます。手術前の骨の状態にもよりますが、所要時間は1〜2時間程度です。従来の人工股関節術の場合、手術翌日はベッド上、2日目からは車椅子へ移ります。またMISの場合、手術翌日から状態をみて、立ち上がる練習や歩行器を利用した歩行訓練が始まり、10日前後での退院となります。一般的な人工関節の手術の場合は、術後3週間の入院の後、杖あるいは独歩で退院となります。その後は、術後の経過やご本人のニーズに合わせ、外来通院や自宅でのリハビリが継続します。経過が順調であれば、1ヶ月後には仕事復帰も可能です。

●リスクと後遺症

人工股関節手術後のリスクとしては、緩み、摩耗、細菌感染、脱臼などが術前説明でも一般的に取り上げられますが、身近な悩みとしては「脚長差(きゃくちょうさ)」による歩きにくさと「反対側の痛み」です。

▲人工股関節「手術前」 (クリックで動画に切り替わります)
▲人工股関節「手術後」 (クリックで動画に切り替わります)

脚長差とは、脚の長さに差が生まれることで、手術をした側の脚が人工関節を入れることで長くなることがあります。 その原因は手術肢位(横向き、仰向け)や術者の技術的な問題、さらには手術を行うタイミングなどが考えられ、確実に脚の長さを整える事が難しい場合もあります (数センチの差であれば、骨盤の歪みを解消することが可能です)。

例えば、70代のある女性は、股関節の痛みから数件の整形外科などで診察を受けていましたが、年齢的な事から経過観察と薬による治療を受けていました。 なかなか改善が見られないため、なんとか痛みと歩行を回復したいとの思いでginzaplusでの股関節施術を行い、順調に痛みも歩きも改善されました。 ところが、状態が良くなっていたにもかかわらず(「手術前」の動画)、たまたま診察を受けた大学病院の医師に、初診で「今すぐ手術を行わないといずれ歩けなくなる」と人工股関節手術の宣告を受け、2度目の診察時には既に手術の準備に入る状態。 ご本人は迷った末に最終的には手術を決断されましたが、脚長差の影響から正常な歩行も困難な状況となってしまいました(「手術後」の動画)。 手術前よりも深刻な状態となっているにもかかわらず、十分なフォローも無く、既に大学病院でのリハビリも打ち切られてしまいました(このようなケースは海外では裁判にもなっています)。

そのような状況になると、次に心配されるのが、反対側の痛みです。手術後は決まって免荷期間が設けられ、反対側の健康な脚で自分の体重を支えなければなりません。片側を手術するともう片側も人工関節にされる方が多いように、リハビリ期間が十分ではなかったり、きちんとした指導が理学療法士により提供されていないと、早い方では1年ももたないうちに更なる手術を迫られることがあります。

最近ではMISが注目を集め、傷口が小さいことが最良であるかのように思われがちです。しかし、日本人のようにいわゆる二次性の股関節症、つまり、幼少期からの影響が強い場合には、適さないこともあります。小さな創では術中の操作が難しく、安定した人工関節の設置が得られていないことがあります。2回目以降再置換の際には、結局大きく開く必要も出てきます。また、罹患期間が長い方では、これまで身体に染み付いた動きの癖を、数日の入院期間中のリハビリで改善することはほぼ不可能です。最新のトレンドやメディアの評判に惑わされない、ご自身の状態に合わせた治療方法を選択することが、術後の不満を解消するためにも大切です。

骨切り手術 (RAO、CPO、AAO)

●概要

医療技術の進歩とともに人工関節の機材の改良が推し進められ、目覚ましい発展を遂げる一方で、自分の骨を切ったり削ったりして、股関節の形状をできるだけ正常に近づけようとする取り組みも行われます。骨切り術の中でも「寛骨臼回転骨切り術」(RAO:Rotational acetabular osteotomy )は、生理的関節軟骨による骨頭被覆が得られる利点があり、日本整形外科学会でも推奨され、外科的な予防手術として最もポピュラーな骨切り術です。進行期や末期を対象にキアリ骨盤回転術、その他、低侵襲寛骨臼回転骨切り術 (CPO:Curved periacetabular osteotomy) や東海地方を限定して行われる臼蓋内転骨切り術 (AAO:Acetabular adduction osteotomy) などが有名です。

▲骨切り手術前(20年前)

▲手術後7年経過

▲手術後16年経過

●手術内容

日本では、変形性股関節症の原因の約8割が臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)に起因するとの判断から、臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)で関節軟骨が残存していれば、RAOが勧められることが多くあります。CPOも同様の目的に行われますが、最も大きな相違点としては、RAOは股関節の外側からのアプローチ(手術肢位:横向き)し、お尻の横の中殿筋を切離する必要があるのに対して、CPOでは、前方からのアプローチ(手術肢位:仰向け)のため、中殿筋を中心とした外転筋群は温存(低侵襲)されます。

また女性の場合は特に気になる傷跡も、RAOでは骨盤から太ももにかけて大きな弓状の皮切が作られますが、CPOでは、前方10cmほどで下着の中にも隠れる程です。身体への負担が少ない分、やはり手術のリハビリ期間も早く、RAOでは通常、手術後1週目はベッド上生活、術後2〜3週目から松葉杖での歩行練習がスタートするのに対し、CPOでは、手術翌日から車いす、翌々日には、松葉杖歩行が開始となります。しかしどちらも手術後はしばらく痛みが続くことが多く、リハビリの長期化は避けられません。社会復帰にはともに3ヶ月以上を要し、術後は外来リハビリ、あるいは近隣の提携病院でのリハビリ通院が可能であるのかどうかなど、事前準備も必要です。

●リスクと後遺症

日本では骨切り術が予防的側面をもつ一方で、術後に痛みや痺れが増悪、脚長差により歩行が困難になるケースも多くみられます。 最も避けたいリスクとしては、変形性股関節症の「進行」です。その原因には、手術手技の問題、抜釘時期、不十分なリハビリ、女性ホルモンや骨密度の影響など、様々な影響が考えられます。

1980年代から発展を遂げた骨切り手術も、その後30年近くが経ち長期成績が明らかになりつつあります。 最近の研究では、3人にひとりが10年〜15年のうちに進行期や末期へ至り、なかには10年も経たないうちに人工関節を余儀なくされる方も増えています。 このため、手術による侵襲、長期入院を要する事から、近年では敬遠されている手術方法です。※参考) 寛骨臼回転骨切り術〜長期成績と適応〜 2010

例えば、セカンドオピニオンを目的にginzaplusへ来られたある40代の女性(右レントゲン写真)は、20年前に医師に勧められて骨切り手術を実施しましたが、その後症状が改善されず、20年後には痛みと跛行から杖が手放せない状態になってしまいました。 レントゲンを見ると、20年前の手術前にはまだ軟骨の隙間が残っていましたが、手術後の経過と共に軟骨がすり減ってしまい、骨盤側と大腿骨側共に骨も変形しているのが確認できます。 通常はやわらかい関節包が硬くなってしまっており、重度の痛みと共に、股関節の可動域が著しく制限されている状態です。 また、また骨切り手術は骨の一部を切り取るため、時間の経過と共に骨が短くなって脚長差が出てしまっています。 ginzaplusでの股関節施術を開始後、かなり痛みは軽減されましたが、他の医師からも人工股関節の手術を勧められ、精神的なショックから立ち直れない状況です。

骨切り手術は、一般にその術後成績から比較的年齢が若い時期に勧められることがありますが、その後の後遺症の生じるタイミングや症状によっては、出産や子育て、職場復帰などへ大きな影響を残します。 手術にあたっては、人生設計を見据えた上での判断が望まれます。

股関節鏡視下術

▲股関節鏡視下手術後の歩容の悪化 (クリックで動画に切り替わります)

●概要

股関節唇損傷という病態の広がりに併せ、軽い股関節の痛みなら「股関節唇損傷(疑い)」と診断されることが多くなりました。しかし、その診断、治療の判断は未だ曖昧であり、特に日本人に対する股関節唇損傷の手術は、人工股関節よりも、他の骨切りの手術よりも不確実で、安定した術後成績がまだ残せていません。非常にチャレンジングな手術です。

●手術内容

実際の手術では全身麻酔、仰向けで行います。股関節の隙間を確保するように両下肢を牽引します。股関節の外側に小さい穴を数カ所作り、内視鏡を入れ、損傷部位を切除、あるいは縫合する股関節鏡による手術が行われます。医療機関や術者によっては、腸骨や腸脛靭帯を移植したり、大腿骨や骨盤側の骨を削るなど様々な手法が用いられます。手術後は、股関節唇損傷用のリハビリ実施計画が病院毎に用意され、それらを基本に理学療法士によるリハビリが行われます。損傷部位が治癒されるのに要する期間は、おおよそ3ヶ月といわれていますので、損傷部位にはストレスがかからないよう痛みに配慮しながら運動課題が設定されます。痛みの程度に合わせ徐々に活動度を上げていきながら、アスリートでは3〜8ヶ月、一般の方では、半年での完治を目指します。

●リスクと後遺症

現在までのところ様々な種類の合併症、後遺症が報告されます。 ・手術前よりも悪化した痛み ・杖が外せない ・スポーツ復帰、職場復帰ができないなどの運動機能の低下 ・脚が曲がらない ・靴下が履けない などの日常生活のトラブルが後を絶ちません。長時間強い牽引力で脚を引っ張る独特な手術肢位から、神経損傷や陰部擦傷などの合併症も聞かれます。また、その後の人工関節が避けられない、再手術を余儀なくされるなど、更なるリスクも抱えます。この数年で10代〜60代、様々な年齢層に対し試験的に股関節鏡による各種手術(縫合術、切除術、棚形成術)が施行されてきましたが、術後成績は安定せず、歩行能力が失われたケースすら存在します。

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