日本では高齢化にともない近年、増加し続ける骨折のひとつです。 骨粗しょう症で骨がもろくなっている場合、転倒などにより発生し易く、要介護の原因でもあります。 骨折が起こり易い大腿骨の「頸部」とは、股関節が「く」の字に曲がった形のため、転倒した際には衝撃力が集中します。 またここに生じる骨折には、大きく分けると、股関節包(股関節をとりまく袋)の中で起きた頸部骨折(内側骨折)と、関節包の外で起きた転子部もしくは転子下骨折(外側骨折)に分かれます。 骨の表面には骨膜があり、折れた骨が癒合する時に重要な役割をします。 ところが、関節包の内側にある大腿骨頸部にはこの骨膜が存在せず血流が乏しいため、この部分の骨折は非常に癒合しにくく、治りが悪く遅延する特徴があります。 逆に、転子部は栄養血管が豊富で比較的治りやすい場所です。 骨折する部位により、骨融合が障害されやすく偽関節、あるいは大腿骨頭壊死を続発する可能性もあります。 こうした骨折が高齢者ばかりではなく、今若年者でも急増しています。 転倒や外傷、その他特別な誘因がなく、クラブ活動やスポーツなどの影響から股関節部位の痛みを訴え、様々な検査の結果、大腿骨頸部骨折が判明することがあります。
大腿部周辺の骨折の一般的な治療方法には、ギプスで固定、松葉杖などで免荷する保存療法と外科療法に分かれます。
大腿骨頸部骨折の治療といえば、多くの病院では、手術療法に偏りがちですが、骨折部位やレベル、年齢、受傷起点を考慮され、保存療法が選択されることもあります。 牽引や完全免荷の松葉杖歩行、痛みが強い時期には安静を心掛けることで、症状の改善、正常な骨癒合も期待できます。
特に10代や20代のアスリートに生じる骨折の場合、 高齢者に生じる外傷性の骨折とは受傷起点も転移の程度も異なるため、 将来を見越して、医師の判断により、保存療法が選択される場合があります。 経過観察中は、単純レントゲン撮影のみならず、MRI画像も参考に、骨折周辺部の状態を正確に把握し、安静度にあわせて徐々に荷重量を増やすことで、筋力低下の予防、骨折部の治癒を促進させます。
外科的な治療法としては、骨接合術と人工骨頭置換術、2つの治療法が選択されます。 骨接合術とは、骨を金属などの器具で固定して、折れた部分を接合する手術です。 それと、骨折した頸部から骨頭までを切除して、そこを人工物(金属、セラミックス、ポリエチレンなど)で置き換える、大腿骨頭壊死やリウマチでも行われる人工骨頭置換術があります。 大腿骨頸部骨折に対する骨接合術では、偽関節や骨頭壊死、遅発性骨頭陥没が合併症として生じるリスクがあります。 こうした合併症が生じた場合には再手術、もう一度開けて固定していた金属器具を抜去して、人工骨頭置換術を行う必要があります。 骨折した時に最初から人工骨頭置換術を行えば、偽関節や骨頭壊死などの合併症は生じにくいです。 しかし、人工骨頭置換術は骨接合術に比べて手術侵襲がやや大きく、長期的には挿入された人工骨頭が弛んでくる場合があり、耐久性の問題、再置換術が懸念されます。