海外セレブや国内芸能人、最近では、トップアスリートも悩ませた股関節唇損傷といわれる病気。 日本でも一部の専門家を中心に脚光を浴びています。 一見、真新しい発想に思われがちですが、既に肩関節の分野では、同様の概念のもと治療が実践されています。 これまで原因不明とされた股関節痛も、股関節唇損傷という新たな概念の到来により、より身近な“股関節の怪我”として、注目を集めています。
股関節唇とは、骨盤側の臼蓋を縁取りするような取り巻く繊維軟骨のことです。 骨頭を安定化させ、衝撃吸収の役割を担っています。 股関節唇には神経が通い、損傷を受けると痛みが生じることがあります。 現在日本でも、股関節唇損傷が変形性股関節症に起因する、との仮説のもと、早期治療が呼びかけられています。
股関節唇がひとたび損傷を受けると、脚を動かすような動作に痛みが走ったり、引っ掛かり感を訴えることがあります。 日常的にはあぐらをかくような股関節を外側に開く運動(=外旋)、あるいは、内側へ倒すような運動(=内旋)時に痛みや違和感が生じることがあります。 靴下を履く、爪を切るなどの股関節を深く曲げるような動作で異常感覚を訴えれば、股関節唇損傷が疑われます。
股関節唇損傷と同様の痛みに「筋損傷」、つまり筋肉の痛みがあります。 一般に、股関節唇が損傷を受け易い動作とは、股関節を深く曲げ、捻るような運動です。 実はこれは筋肉も一緒です。 過度な股関節の動きを要求されるバレリーナや新体操の選手、あるいはダンサーでは、確かに股関節唇への損傷を伴うことはあっても、実際に痛んでいるのは、関節唇ではなく筋肉であることがあります。 整形外科では、筋肉への関心は薄く、不必要な手術が行われていることがあり、痛みの原因特定には慎重な対応が望まれます。
臼蓋側の屋根の浅さを補うのが、関節唇の役割です。 臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)保有者では、骨の被りが浅い分、関節唇が補強の役割を担っています。 関節唇は、柔らかい軟骨組織のため、繰り返しのストレスは、唇損傷を招く恐れがあるといわれます。 そのため、臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)の存在が分ければ、できるだけ関節唇への負担を生じさせないような股関節の動かし方、身体の使い方を理解し、日々の生活の中から実践することが痛みの管理、予防にも繋がります。 日本では現在、臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)保有者の股関節唇損傷が注目されています。 2000年以降盛んに関節鏡視下術も行われてきました。 最近の研究でも報告があったように、その成績は決して良好とはいえません。 できるだけ保存的治療で改善を試み、症状が改善されない場合のみ、手術を検討してみましょう。
股関節唇損傷への治療方法として、今最も注目を集めているのが、股関節鏡視下術です。 股関節の外側に小さい穴を数カ所作り、内視鏡を入れ、損傷部位を切除、あるいは縫合する股関節鏡による手術です。 元来、肩や膝で盛んに行わいた手術方法を股関節にも応用しているのですが、難易度も高く、まだあまり普及されていないのが実情です。 そのため、手術後の経過や症状も様々であり、人工股関節のような理想的な回復曲線を描き難くいのが特徴です。 一方で、最も身体に負担の少ない方法に保存療法があります。 医療機関によっては消炎鎮痛剤の投与などで済まされることがありますが、徒手療法と運動療法による組み合わせによる保存療法が著効します。 その場合、1回の施術ですっかり痛みが消失するケースも珍しくありません。 「股関節唇損傷(疑い)」との診断が多く聞かれるようになりました。 確定診断が下されても、まずは保存療法を実践し、早期社会復帰を目指しましょう。
手術後の痛み、運動機能の低下に悩まされている方が後を絶ちません。 (術前よりも)痛みの増悪、杖が外せない、股関節が曲がらない、スポーツ復帰できない、職場復帰ができない、など訴えも様々です。
他の股関節手術とは異なり、黙っていて次第に回復していく、自然回復が難しく、術後1年も経たないうちに急速に悪化し人工股関節を選択された方、痛みの影響から2年、3年経っても杖が外せない方までいらっしゃいます。 損傷部位が治癒される3ヶ月を経過し、まともに荷重ができない、痛みがあれば、早目に専門家の指導を求めることが必要です。 日本では、前例が少なく、長期成績に関する報告も少ないため、術者によっては人工関節までの繋ぎと考えている場合もあります。 術後のリハビリに関する情報も不足しているため、手探り状態で行われているのが、現状です。 まだまだ新しい治療法のため、万が一の際には診れる医師や理学療法士がいない、といった事態まで起こり始めています。
耳慣れない表現でしょうが、FAIとは、Femoroacetabular impingement の略語で、股関節の臼蓋側と大腿骨側の衝突、骨と骨のぶつかりを意味します。 股関節唇損傷の患者様の中には、大腿骨頭の頸部のくびれが少なかったり、臼蓋の骨のでっぱりがあったり、軽度な骨形態の異常が原因で、運動時に骨同士の衝突を起こし、股関節唇損傷を引き起ている場合があります。
FAIという概念の中にも、臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)が含まれ、FAIを痛みの原因と捉えるべきか、それとも結果と捉えるべきか、それによって外科手術あるいは保存療法、治療手段も大きく異なるため、専門家の間でも関心の的になっています。