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[股関節唇損傷] 股関節鏡視下手術後の悪化

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[股関節唇損傷] 股関節鏡視下手術後の悪化

今月はインドでの国際学会へ出席し、月末は日本の股関節学会へ参加してきました。インドの内容は現在まとめてますので、また勉強会などでご紹介させていただきます。昨日までの股関節学会では、興味があった演題「臼蓋形成不全と進行との関連」と「股関節唇損傷の手術への要否」に関する報告を聴講できましたので、少しだけご紹介させていただきます。

前半の臼蓋形成不全と進行との関係については、日本でも海外でも、未だ明らかにされていないのが実情です。医療機関によっては、脅しめいた表現も頻繁に耳にするようですが、実際にはそう単純なものではなくもっと複雑に要素が絡み合い、患者様への説明も慎重であるべきことが述べられていました。一つの目安として、屋根側の被りの深さを角度やパーセンテージが表現されますが、これらも目安に過ぎず、改めて進行を助長させないための患者教育、運動療法が重要であることが報告されていました。またある大学病院では、臼蓋形成不全例を35年追跡調査した結果、進行例は確認されなかったと報告されています。

同様に、海外の研究結果でも、臼蓋形成不全が変形性股関節症を示唆するものではないことが示されています。しかしながら日本では、患者間でもまた医療者間においても、臼蓋形成不全=変形性股関節症との印象が強く刷り込まれてしまっています。臼蓋形成不全を避難する風潮に、医師からも疑問の声が上がっていましたが、これは大きな問題ですね。

そして後半の股関節唇損傷のセッションでは、手術の必要性の有無が問われていました。みていると、両極端に分かれますね。手術派と保存派。これも上記同様に、また分かっていないことが多く、身体に害の少ない方法で痛みが取れる方法を優先されるべきでしょう。ある股関節専門医の先生は、股関節唇損傷が確認されても関節内に着手せず、保存療法で約8割完治すると明言されていました。その背景には、数多くの股関節唇損傷の手術を行った結果、成功例でも痛みを訴える例があったり、人工に至るケースなどがあったからだそうです。

別のセッションで聞かれたのは、アスリートではほぼ全例に股関節唇損傷を認めるとの報告です。痛みを訴えない無症状のうち女性では13%、男性で36%にMRI上の股関節唇損傷が確認される、との報告も聞かれました。つまり、股関節唇損傷と痛みとの関連については、最近の手術趣向を否定できそうですね。この数年で股関節唇損傷への考え方が大幅に変わりました。

私自身が経験しているのは、たとえ、股関節唇損傷の手術をし治ったとはいっても、腰や膝、場合によっては肩など他の隣接関節に影響を受けている方たちを多く拝見しています。また、再手術を勧められている例も非常に多いです。本当に手術が成功したといえるのでしょうか。そして何より、現実的に起こっている問題では、手術後に関節症が進行する例がこれまた多いことです。上の報告にもあったように、臼蓋形成不全例やアスリート、また高齢者でも関節唇損傷は付き物です。それら全てを痛みの原因と扱い、十分な患者教育や運動療法なしに手術を行うのには、問題を感じざるを得ません。

60代の女性です。股関節痛を抱え、整形外科を受診しましたが、一向に改善されず、
紹介された医療機関では、股関節鏡による手術を勧められ、関節唇の縫合手術を行いました。

そして、9ヶ月後。
当初の痛みは改善されたものの、別の種類の痛みに悩まされています。画像を撮れば、関節症へと瞬く間に進行。あったはずの軟骨はなくなり、骨がぶつかりはじめています。今はまともに仕事もできていません。一番の問題は、こうしたリスクがある事を患者様自身が知らされていなかったことです。寝耳に水、現況を説明しても全く理解が得られない状況です。但し、ここで踏ん張らないと待っているのは人工関節だけです。

最近のアメリカの研究では、50代以上の股関節鏡による手術後、約3割に人工関節に至るとの報告があります。年齢が上がるに従って、非常に厳しい手術であることが分かります。今回の学会では、「臼蓋形成不全は決して進行を助長するものではない」「股関節唇損傷は痛みの原因ではない」、臨床成績、経験、研究データからこれまでにはなかった新たな展開が確認されました。患者様あるいは専門家の中にも、臼蓋形成不全だと一生リハビリが欠かせない、あるいは、不治の病と勘違いされた方も多いかも知れません。しかし、実際には、そのあたりの因果関係はまだ分かっていないことが沢山あるのです。

あまりこの話題は聞かれませんでしたが、日本人における股関節痛の改善には、「生活習慣」への介入が不可欠と、私個人は感じております。

ginzaplus 佐藤正裕(理学療法士)



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