今日は骨切り手術の成績についてご紹介します。
最近になって骨切り手術をし、30年~40年と比較的経過の長い方からご相談をいただくことが多くなりました。人工関節も同様ですが、手術をしても不安や悩みは尽きません。学術的には良好(レントゲン画像や痛みなど)との判断であっても、皆さん個々に問題を抱えていらっしゃいます。
・骨切り手術をすれば、一生もたせられる
・骨切り手術さえ終われば、その後の生活は安泰である
術前に、そんな風に言い渡されている方も多いようです。
こここで改めて、昨年2022年の股関節学会の抄録をもとに現時点での状況について、要点のみ取り上げてみたいと思います。
明日のブログでもご紹介しますが、まずは、キアリ骨切り術についてです。
骨切り手術全般にいえることですが、こちらの報告でも前置きがされているように、骨切り手術は人工関節までのtime-saving目的で施行されることが多くあります。この点については、術者が直接患者さんに説明して下さっているはずですが、今一度確認してみる必要があるかも知れません。1000件以上もの骨切り手術を行った結果、手術後30年では約64%の症例で人工関節に移行した、との報告です。年齢が高くなるにつれその割合が増えてきていることが理解されます。
こちらは、SPOによる手術成績です。
特殊な手技であるため、医療機関は限られますが、まさにハイブリッド型とでもいいましょうか、最新の手技による骨切り手術後の成績です。新しい手術ですので症例数も少なく、その後の長期成績を捉えるまでには至りませんが、49例に対し手術を行い、その5年成績を報告しています。結果は、7例(14.3%)で関節症の進行を認めています。ただ、末期や人工股関節には至っていないとのことです。
こちらの研究報告はタイトルの通り超長期に渡って経過を報告されています。
ginzaplusでも最も依頼の多いRAOについての術後成績です。1982年から長期的にフォローされ、経過観察可能であった67例の経過を報告しています。結果からは、67例中約半数(49.3%)が人工関節に移行し、残りの半数は症状の進行については触れられていませんが、まだ手術には至っていないとのこです。
こちらも骨切り手術の中でも最もポピュラーなのがRAOです。
こちらの研究では、悪化例の予後不良因子を検討しています。対象は術後10年以上が経過した241例。術後経過が良好とされる例では、年齢が若く軽度の臼蓋形成不全、一方で、年齢が高くなり臼蓋形成不全の程度が強くなると、RAOをしても15年関節生存率が70%まで低下しています。45歳以上で手術を施行した例では、10年までは良好であるが15年以降は関節生存率が50%以下まで低下するとの報告です。
※報告された病院名や詳細については、第49回日本股関節学科う学術集会の抄録をご参照下さい。
各種骨切り手術後の長期成績についてご紹介しました。医学的には経過良好との判断でも、こちらサイドでは皆さまから様々な訴えが聞こえてきます。結果の受け止め方はそれぞれでしょうし、納得のいった上での選択であれば後悔もないはずです。ただ実際に拝見すると、手術後の現状を受け入れられず、将来への不安に戸惑われている方も多くいらっしゃいます。インフォームド・コンセントに従い、手術前に説明はあったはずですが、どうしてもメリットにばかりに気を取られ、大事な予後については見落とされがちです。
股関節の手術に関するリスクについては、ginzaplusのウェブサイトでもご紹介しておりますので、ご参考になさって下さい。
股関節の種類、リスク、後遺症:
https://ginzaplus.com/jp/treatment/surgery/
では、長期成績の改善には、何をどうすべきか?
これは、手術による技術的な問題だけではなく、将来的に誰もが直面するであろう加齢に伴うロコモやフレイル、サルコペニアなどの存在を無視することはできないでしょう。特に、骨切り手術を受けた患者さんに対しては、教育的な意味も含めた継続的な指導が必要と考えます。単にレントゲン撮影のみの評価ではなく、進行を予防するための策を講じたならば、悪化に伴う人工関節へのリスクも避けられるはずです。
今後も最新の研究報告に耳を傾けながら、骨切り手術後の患者さん達の悩みに応えていきたいと思っています。
ginzaplus 佐藤正裕(理学療法士)