ブログ

[研究論文] 変形性股関節症に対する運動療法の有効性について ~システマティックレビュー~

ブログ検索@股関節の保存施術

[研究論文] 変形性股関節症に対する運動療法の有効性について ~システマティックレビュー~

更新 2023年02月11日(土)
カテゴリ 股関節の保存施術
ハッシュタグ #研究論文 
今年になって早速新しい論文が入ってきましたので、ご紹介させていただきます。

今回の話題に入る前に改めて確認しておきたいのは、1997年、医学系雑誌THE LANCETで紹介された下の図のアルゴリズムです。

現在の変形性股関節症に対する診療ガイドラインが成立するまでの間、膨大な数の運動療法に関する研究論文が世に排出され、その手の専門家によって信憑性が吟味され、患者治療の一助となっています。

今回の報告には、オランダ人の研究者を筆頭にシドニー大学の研究者陣が名を連ねます。シドニー大学の変形性関節症教室は非常に有名で、毎年興味深い報告が多く散見されます。私もオランダでの国際会議に出席させていただいた際には、直接質問をさせていただきました。とても丁寧に答えて下さったのが、印象に残っています。
▲Paul Creamer et,al. Lancet 1997
さて、変形性股関節症への解決にはご覧のような考えのもと進めていくことが必須であります。患者教育、理学療法、作業療法、体重管理、運動療法、歩行補助具の活用方法などが基本であり、その次に薬物療法、そして最終手段として外科治療が用意されています。

国際学会でも扱われる内容の多くはピラミッドの底辺に存在する、いわゆる「保存療法」という分野であり、外科治療に関していえば、むしろ日本の股関節学会に出席した方が勉強になるのかも知れません。その背景には、医療経済的な問題が隠れています。そして何より身体への負担のない、最も安全で確実に良くなる方法が、様々な研究を駆使し生み出されているのですから、取り掛からないわけにはいきません。

そして、2000年に突入してからは、その中身が吟味されはじめています。2018年のイギリスでの国際学会では「歩行」に大きな関心が寄せられました。変形性関節症患者の歩き方に注目し、関節への影響が報告されています。
そして、今回の報告では、これまでのエビデンスをさらに強化する形で、これまでに発表された質の高い運動療法に関する論文だけを集め、再評価し、統計学的な解析を行っています。

股関節症に関しては、以前にもブログでお伝えしているように、膝関節症に比べ論文数は少ないのですが、ただそれでも、内容の良いものが多く、信頼性に値するとされ、改めて、その有効性を証明して下さっています。
1997年にLANCETで紹介されて以来、その後も多くの論文が発表され、数年単位でレビューが繰り返さています。イギリスに本部を置く非営利団体「コクラン」によれば、もう科学的な根拠は十分に出揃っており、変形性股関節症に対する運動療法の有効性が覆ることはないであろう、と2014年にすでに結論付けています。

彼らには、科学的根拠に基づく医療の実践、いわゆるEBM(Evidence-Based Medicine)を普及させようとした考えが根強く残っており、商業目的に利益を産もうとした研究には厳しい視線が向けられているためです。

新たな労力や資金をかけてまで「効果のある治療法」と「効果が乏しい治療法」を分けて、患者さんに研究を実施することさえ倫理的に反する、と考えています。
運動療法の有効性を検討したメタアナリシスの結果では、古い研究論文では1998年まで遡り、新しいものでは2020年に発表された論文が網羅されています。サンプル数も年数ともに増え、研究の質も成熟され、統計学的にもきれいな有意性を認めています。

いくつかの研究報告を掘り下げて読み込んでみると、ある研究結果では、痛みと運動機能の改善に要する期間は、おおよそ6~9ヶ月と定めています。おそらく、私の印象でもこの期間が1つの目安です。

もうひとつ気がかりなのは、向こうでは、一週間に2~3回の頻度で理学療法士のアポイントを取り、理学療法士の指導のもと運動を実施している点です。さて、現在の日本の医療保険制度下において、ここまでの手厚いサービスを受けられることが可能なのでしょうか。自費リハビリに頼らざるを得ない環境であることも理解されます。
さらに一歩踏み込んだ指摘では、一体どのような症状の方に、どのような運動を、どれくらいの強度と頻度で行うべきか、このあたりの明確さも求められています。

実はこうした問題は以前から囁かれていて、私が2018年に書籍「変形性股関節症は自分で治せる」を出版させていただいた際には、こうした研究結果をもとに変形性股関節症の方を症状別に2つのグループに分け、運動方法をご紹介させていただきました。

進行期や末期であれば、初期の方とは同じような運動はできませんから、施術にあたる側がアイディアを絞り出さなくてはなりません。最終的に手術に至るようなケースでは、決まって股関節の可動域が失われ、筋力低下が急速的に訪れます。これらの課題を、何としてでも早期に阻止しなければなりません。

今回の報告は、我々変形性股関節症に従事する医療者に対して大切な問題を突き付けて下さっています。「痛みがあるから動かさない」といった0か100の発想ではなく、「痛みがあるからには、どのあたりに注意をし、動きを止めようにしなければならないのか」、現代の専門家に求めらる重要課題のように思われます。

ginzaplus 佐藤正裕(理学療法士)



更新 2023年02月11日(土)
カテゴリ 股関節の保存施術
ハッシュタグ #研究論文 

最新記事






次:施術事例
▼「ブログ」その他のコンテンツ
全カテゴリ 股関節の保存施術 施術事例 お知らせ メデイア プライベート
Copyright © 2004-2024 ginzaplus | 当サイトの全コンテンツは著作権法、関連条約・法律で保護されており、無断での複製・転載・転用を固く禁じます。| 利用規約 | 個人情報保護方針
Web System & Design by R-Crafz