股関節の痛みの改善には、手術しか方法がないものと諦めてはいないでしょうか。海外には変形性関節症に特化した学会組織が存在し、定期的にその予防と治療に関する研究成果が更新され世界の専門家向けに情報発信がされています。その中で治療方法に関して最も力強く推奨されているのは「保存療法」です。メスを入れる外科治療ではなく、
薬や運動療法を主体とした治療法に効果があると証明されています。
ところが日本では「保存療法なんて知らなかった」「そういう方法があるのなら手術前に試してみたかった」との声が聞こえるように、必ずしも、全ての股関節症患者さんに
保存療法の存在が説明されるわけではありません。どこの病院にかかれば保存療法の可能性を示していただけるか、どちらの先生が保存療法への理解があるのか、股関節を専門に取り組めば、自ずと専門医師や病院のカラーがみえてきます。しかし、痛みを抱える患者さんにとっては、当初は未知の世界ですし、最初にかかった医療者のアドバイスがその後の人生を左右するとも限りません。どんな治療を選択するかによって丸っきり異なる人生が待ち受けていることさえあるのです。
下の表は、2012年に日本で行われた股関節の手術件数です。
人工股関節の手術が第一位です。
どうして科学的にも根拠のある標準的な治療=保存療法が日本では推奨されにくいのでしょうか。その理由を以下に考えてみました。そのひとつ目の理由は、
「保険点数の低さ」です。
保存療法は外科治療と比べると極端に保険点数が低く設定されています。例えば、日本でもトップの人工股関節の手術では保険点数は以下の通りです。
保存療法はといえば外科治療とは桁が異なります。
そのため病院の収益を考えれば、短時間の間に数多くの患者さんをこなす必要性が生まれます。マンツーマンで関われる時間が制限されるのはそのためです。手術後ではリハビリ期間は150日と国から定められ、それを過ぎればご自身でその後のケアの場所を求め探さなければなりません。満足のいく外来リハビリを提供しようと思えば、自費診療というスタイルをとらざるを得ません。
それともう一点はリハビリ専門職でもある「理学療法士の意識の低さ」です。
私自身も理学療法士、自分で自分の首を絞めるようですが最も身近で携わらなければならない理学療法士にも問題がありそうです。外からはどのようにみられているかは分かりませんが、理学療法士も非常に狭い世界の中で生きています。病院に勤務し経験を積めば管理職。年数が経てばある程度の地位も確保され、上が辞めなければ下からも入って来ず古い体質だけが残りがちです。理学療法士も一日○人迄、あるいは何単位迄と、一日に携われる患者さんの数には制限が設けられています。こうした環境では新たな発想が生まれにくいのです。
この先、将来の理学療法士像を変えられるチャンスがあるのは、10年、15年と臨床経験を積んだ中堅どころの理学療法士たちです。豊富な経験を身につけ、アイディアも沸き上がっている年頃です。フットワークの軽い時期を逃してしまえば、やがて新しいことには着手しなくなり、自分の身の安全を優先し"守り"に入ります。
股関節症の保存療法が実践されにくいのは、国の制度的な問題、それと、理学療法士の意識にも問題があるからでしょう。国を指針を変える、制度の変更を迫るのは、相当な努力が必要そうです。ですが、このままではマズい、将来への危機感さえ芽生えれば、個々の振る舞いは本人次第でどうにでも変えられるはずです。今後は、日本における保存療法の普及活動に併せ、海外での活躍の場を求め新たな可能性を模索していきたいと考えております。
ginzaplus 佐藤正裕(理学療法士)