[研究論文] 変形性ひざ関節症への歩行エクササイズの有効性
今日は「ひざ」関節症に関する情報をお届けしましょう。2022年、アメリカのリウマチ系学会からの報告です。
海外では、ひざ関節症も股関節症と同じように専門学会では扱われます。患者数も圧倒的にひざ関節症の方が多く、研究自体もより多くのエネルギーが注ぎ込まれます。最近話題の再生医療も、ひざに関する研究発表は沢山ありますが、股関節については極々僅かな状態です。
さて、日本では、変形性ひざ関節症や股関節症を患うと、医療者たちは決まって「歩かないように」と口を揃えアドバイスするようになります。しかし、本当に、こうした指導は正しいのでしょうか。私が拝見する限り、歩きを止めた方たちが関節症を進行させ、最終的な手術の決断を迫られているように思われます。
こちらの研究対象は、変形性ひざ関節症との診断をされた、あるいは疑いのある男女1212人。平均年齢は63歳。初期から末期までの患者さんたちです。
「歩行練習を推奨するグループ」と「歩かないグループ」とに分け、以下の4項目について最大4年間に渡り追跡調査を行っております。
・痛みの出現
・関節症の進行
・関節の隙間の狭小化
・アライメント(脚のライン)
結果、歩行練習を推奨したグループの方が、痛みが減少し、関節症の進行もなかった、とのことです。
もうひとつ興味深い評価項目に「アライメント」を取り上げています。
つまり、変形性ひざ関節症の方の中にも「O脚タイプ」と「X脚タイプ」が存在しますが、そのどちらに対しても歩行エクササイズは有効であるのかどうかを調査しています。
結果からは、同様の効果が確認されています。
それでは、日本人においても、同様の効果を引き出したいと思うのですが、まずは何から着手すればよいのでしょうか。
変形性関節症の治療に携わる医療者側の固定概念を拭い去ることからはじめなければならないでしょう。未だに日本では「歩くと体重の〇〇倍が関節にかかる」説に強く囚われた専門家が多くいらっしゃいます。患者さんへの説明としてはわかりやすいのかも知れませんが、近年の再生医療が目覚ましい進歩を遂げるように、軟骨の成長には適度な刺激と荷重が不可欠です。つまり、歩かなければ軟骨も育たないのです。
最後の考察でも触れられるように「患者さんへは歩くことを積極的に勧めるように」と医療者に向け警告しております。変形性関節症に携わる医療者の一言で、この病気へのイメージを新たに植え付け、一生をも左右させます。海外には、有力な情報が無数に存在します。あとは、こうした情報を「どう料理して」予防・患者治療へと活かせるかが、各プラクティショナーの腕の見せどころになるのではないでしょうか。
ginzaplus 佐藤正裕(理学療法士)