今日はもう一歩踏み込んで変形性股関節症と「痛み」について考えてみましょう。
変形性股関節症とは、単に、軟骨のすり減りや骨の変形などのハード面にとどまらず、ソフト面への影響を強く受けることがあります。よく知られるケースでは、骨の問題はそれほどでもないのに、常時痛みを訴えるケース。一方で、進行期や末期でもほとんど痛みを訴えないケースなどが存在します。おそらく根底には、今日取り上げるメンタルへの影響が色濃く反映されると考えられています。
現在では、変形性股関節症の評価項目に精神面の健康状態を記載する項目が盛り込まれるようになりました。
手術をしてもさっと解決、とはならない実情がここにも隠れているように思われます。
最新の変形性股関節症とメンタルへの影響を示した研究論文です。
変形性関節症を診断された未手術を対象にした調査結果では、おおより「10人にひとり」がメンタルのトラブルに悩まされています。
手術後に至っては「 5人にひとり」、精神的な苦痛に悩まされているとの報告です。
手術は成功し痛みがとれたとはいっても、そうは簡単に心身の健康が訪れない現状を物語っています。
最も深刻なケースでは、手術後にうつ症状を発症させます。
手術をしても本調子に戻れない可能性があることもここでも示されています。
例えば、人工股関節の手術後でも、何の問題なく動けていて、人工を身体におさめたことすら忘れてしまうくらい、すんなり回復されてしまう方もいらっしゃれば、常に、何かしらの症状を訴え続ける方もいらっしゃいます。
この差は、一体何なのでしょうか。
報告によれば、手術後1~2年が勝負とのことです。
では、予防策はないのでしょうか。
変形性股関節症にメンタル系のトラブルが付随することがわかってはいるものの、どうしたら、このメンタルのトラブルを避けられるのでしょうか。
研究者たちが注目しているのは、「日常生活動作」です。
これまで難なくこなせていた日々の動作に不具合が生じれば、メンタル面への影響が心配されます。
例えば、「靴下の着脱動作」や「歩行スピード」です。
心当たりはないでしょうか。
骨や軟骨だけではなく、メンタル面へのトラブルまで引き起こせば、次第に症状は深刻化します。
実際の臨床場面での治療方法が紹介されています。
最新のガイドライン、2019年に改定された変形性関節症の国際学会の中でも提唱されるように、メンタルのトラブルに対しても「運動療法」が著効します。
身体を動かすことによる脳への影響、そして全身への波及効果は計り知れません。レベルに併せた運動内容の提案は、理学療法士が最も得意とする分野でしょう。
上記に掲げた、日常動作に不安を残すことがないように、自信を取り戻しましょう。
効果を実感できる目安の期間もここでは示されています。
運動療法による効果が現れるのは、おおよ6ヶ月です。
その間、個人の自己努力に頼るだけではなく、専門家によるマンツーマンの指導を強調されています。
最終的に人工関節に至ったとしても、それまでの間、どういった指導を受けてきたかで、手術後のメンタルのトラブルの発症を抑えることもできるでしょう。
最後になりますが、こうしてみてくると、変形性関節症とメンタルについては、バックグラウンドを考えてみると、年齢や学歴、雇用形態、また破局的思考の存在や家族からのサポートが得られない、複数箇所の痛みの存在、さらには極度の疲労感睡眠時間など、多種多様なリスク因子が存在しているといわれています。
その発症予防と改善には運動療法が有効であり、最低限、身の回りのことはできるように注意を向けましょう。できない動作の積み重ねこそが、心の健康をも脅かす結果となっているようです。特に、一大決心して臨んだ手術でその現実に直面するとなれば、うつの発症にも直結すると報告されています。
変形性股関節症も、もうここまでわかっています。手術の有無に関わらず、症状を長引かせることで一生背負わなければならないことさえ存在しています。
私の経験でも、症状が軽ければ何の不安もなく速やかに解消されます。但し、当初は軽い違和感や痛みであったような股関節痛も、こじらせてしまうと厄介な病へと生まれ変わることが理解されています。
ginzaplus 佐藤正裕(理学療法士)