[研究論文] 運動療法の効果について システマティックレビュー
昨年末に変形性股関節症の運動療法に関する大規模調査結果が発表されました。医学的根拠が非常に高いレベルの研究結果でしたので、おそらく今後の診療ガイドラインにも影響を与えるでしょう。いくつか重要なポイントをご紹介します。
運動療法の効果が報告されるようになって以降、2021年までの間に発表された3130の論文のうち、OARSI(変形性関節症国際学会)に所属する調査員によって信頼性が高い13の論文が絞り込まれています。
「効果が立証されている運動療法」と「プラセボ効果を期待した運動療法」をそれぞれに処方し、その効果を検証しています。
例えば、2014年のBennellらの研究ではで50歳以上の変形性股関節症患者さんを対象に約3ヶ月、理学療法士による運動療法と手技療法、患者教育などと「効果があるとされるマシーントレーニング(プラセボ)」を処方し、その効果を報告しています。
その他にも運動療法と電気治療、外用薬などのクリームなどとの比較も行われています。
結果からは変形性股関節症に対して理学療法士が主体となって指導した運動療法に効果があることを示しています。
一方でsubgroup解析においては、大きな改善が認められていません。詳細については触れられていないので改めて原著を取り寄せる必要がありますが「コンプライアンス」の問題があるように思われます。本文中ではadherence assessmentとして評価されています。治療側との信頼関係、患者側の受け入れ状況(年齢、性別、病期、心理面など)が反映されていると考えられます。
運動機能についても効果が認められています。
ただし6ヶ月までの短期効果がほとんどで長期的な効果については未だ不明な点も残されています。その要因としては厳選された論文のうち最長期間が26週までで、実際に長期を目的に検証した論文が少ないためです。また、それに見合った質の高い研究デザインが不足していることも要因として示されています。
エビデンスレベルは低いですがginzaplusでは「症例報告」を定期的に更新しております。一方で、保存療法が先進の欧米では、これまでにも科学的に効果が高い研究論文が多数発信されており、集大成ともいえる昨年末の論文発表をきっかけに、おそらく今後の診療ガイドラインの改定にも大きく貢献することになると思われます。
RCT(ランダム化比較試験)などの研究デザインは日本では倫理的な問題もあり、実現が難しいことの方が多いのですが、こうした質の高い研究結果の積み重ねにより専門家の間でも、変形性股関節症には運動療法を、という考えが一般的な世の中になることを切に願っております。
ginzaplus 佐藤正裕(理学療法士)